脱サラとシュタイナーの社会三分節化論 好きなことをやるのがモラルの始まり
好きなことを仕事にするために脱サラする人たちが増えている。私自身もそうだ。類は友を呼ぶのか、私の周りも、気づいてみたらそういう人たちばかり。
好きなことで生きていこうとするというと、我が強くて自己中心的な人に思えるけれど、私の知る限り、ストレスでキリキリしているサラリーマンより、ずっといい人ばかり。もちろん経済的にはリスクを背負っていて、家族や子持ちの人たちはプレッシャーがありそうだけれど、それも補って余りあるほどの穏やかさがある。
それがどこから来るのかなって考えると、思いいたるのは、やはりシュタイナーの社会三分節化論などで言われている労働成果は売買していいけれど、労働そのものを売買すべきではないということ。労働成果だけを売っているのなら、独立した職人が、こだわりの成果を市に出すようなもので、ずっと自由に働けます。持続可能な未来のために、地球のために、将来の子供たちのために、個人として責任を引き受けながら、働き方を決めることもできるようになる。
それに、熟練労働者のスキル、創意工夫、イノベーション、発明の才など、仕事で動員されるあらゆる能力は、もちろん教えあったり刺激し合えるし、それもとても重要だけど、あくまで担い手は、最終的には個人だ。それを最大限に発揮するには、たっぷりの自由がいる。
もちろん、イノベーションが命のような最先端の領域、研究機関などでは、社員が自由でないと始まらないのも重々承知のよう。会社の中にスポーツジム、プールや娯楽施設あったり、勤務形態がとてもフレキシブルなところも出てきているようだ。でも、そもそもそんな企業がまだ一般化していなかったり、身体的に自由がきくことよりも重要な、企画決定のプロセスなどでも、どれだけイニシアティブを発揮できるかなどを考えると、本当に自由に働こうと思ったら、現状では、脱サラするしかないところがある。社会三分節化論者が描くような、独立した自由な労働者が分業し、助け合うためにつながる連合体のような企業ができれば越したことはないけれど、現状で一番近いのは、フリーランスの人たちが、目的ごとにチームを組んで一緒に助け合うような状態ということになるのだろう。
だから脱サラした人たちの独特の「穏やかさ」は、社会三分節化論から見る時、労働に現れる精神生活が強制から逃れて、生き生き自由に羽ばたける、社会的な健やかさからきているって言えるかもしれない。
でももう少し、シュタイナーの哲学に深入りして、『自由の哲学』などで書かれているところまで行くと、集合意識の中にいることをやめて、個に目覚めた人たちにとって、「自分の好きなことを目一杯やって、その行為の中で生きつくす」自由な「行為への愛」に生きる時、初めて道徳的直観が生まれ、普遍的な人類愛や世界認識も生まれると言われるからだ。つまり好きなことをやっているたから「いい人」と言うより、好きなことをやっていないと「いい人」でいられないというところまで行くのだ。
一度この「道徳的直観」を目覚めれば、「やりたいこと」と「やらなければならないこと」が一致して、好きなことをやって、自分を活かしきることが、そのまま、自分にできる最大限の社会貢献になる。
ただこれを目覚めさせるために、「君の個性の中から湧き出る衝動が良きものであることを、信頼するよ」という精神的なサポートが必要だ。
そこで思い出すのは、少し前、通勤、通学時間帯のバスで感じたこと。だんだん満員状態になって、立っているサラリーマンもいる中、疲れた面持ちの高校生が何人も、隣座席にカバンを置いて2席占領したまま座ってる。しかも何人も。テストが近いのか、一生懸命勉強している子もいる。周りが目に入らないんだろうかってびっくりしたのだけれど、同時に目に入ったのは、その子たちが着ているお仕着せの制服や、学校の紋章のついたカバン。個性の目覚める時期にありながら、その個性を誰も尊重、信頼してくれない、それを表現することを奨励したり助けてくれる人もいない。代わりに画一的なお仕着せをおしつけられてばかり。こんな中にいたら、生来、どんなにいい子も、道徳的直感も塞がれて出てこれなくなってしまう。
アウシュビッツの総責任者だったアイヒマンが、捕まえてみると、単に自分の頭で考えることができないことをのぞけば、職務に忠実で善良な官僚タイプだったことから、「悪の平凡さ」について論じたハンナ・アーレントのことも思い出される。これは拙著『ナウトピアへ』にも書いたことだけど、個性の時代を生きる私たちにとって、「個」になりきれないことは、魂に蓋をしてしまうことに等しい。今も、善良で優秀な企業戦士の人たちが、集団として、何世代もわたって汚染を広げ、未来の人たちが生きれなくなるような巨悪を平然と作り出したりしているのも、全く同じだ。
by makikohorita
| 2016-08-24 12:25
| ギフトとしての仕事